ラーメン屋には魔物がいる

 

洋服の数は少ないが、その中でも特にお気に入りのアイテムが私にもいくつかある。
そんな洋服を着て外に出るのはとても気分がいい。



しかし、そんな気持ちのいい時間を一瞬にして壊す悪いやつがいる。
それはラーメンだ。私は引きこもりで外出するのは友達からのお誘いをうけた時だけなのだが、だいたい夕食はラーメンを食べるというルールがある。ルール通り夕食にラーメンを食べるのだが、入店前まで無かったシミを2、3点胸につけてお店を後にすることがしばしば。もちろん気をつけて食べているつもりなのだが、ラーメンの汁は私の洋服めがけてアタックしてくる。



お家に帰り、洋服を洗濯ネットに入れる際に小さく茶色いシミにフォーカスしてピントが合いラーメンを憎む。どうして!?私はラーメンになにか悪いことをしただろうか。美味しい美味しいと感謝しながら食べているではないか。ラーメンなんて嫌いだ。
・・・しかし、美味しいラーメンに罪はない。私の食べ方が悪いだけだ。きっと汚したくない一心で慎重に麺を啜っていることに、ラーメンはお怒りなのではないだろうか。その怒りを伝えるためにシミを付けて私に意思を伝えているのではと思い次からは豪快に平らげますとラーメンに伝え次のお誘いを待った。



そして1ヶ月後、友達から連絡がくる。流石に今回は豪快にラーメンを平らげるとなると服を汚すリスクも高いと思い2軍の洋服に袖を通しラーメン屋に向かう。いつもと変わらない気持ちでラーメンを注文し、出された熱々の醤油ラーメンを豪快にひとすすりする。そして胸元に目を向けるが何の斑点もなくきれいな白のまま。やはりそうだ。ラーメンに対してのリスペクトが足りてなかったのか。色々なすすり方を試したがその日の洋服からは一つのシミも見つからなかった。やはり、今まで汚したくないという思いから慎重になりすぎていたことが悪い方に転んでたのだ。


もう答えは分かったのでこれからは何も気にせず、好きな洋服を着てラーメンを食べれるとホッとした。
そして、また1ヶ月後友達から連絡がくる。



今回はお気に入りの洋服に身を包んでいるが、しっかりと敬意を持ってラーメンを前にしている。心を落ち着かせ豪快にラーメンをすする。何も気にせず食べるラーメンはなんて美味しいのだろう。ラーメンさんも喜んでるだろうなと思い、何の気無しに胸元に目をやると今まで見たこともないほど被弾してるではないか。



話が違うな。これは完全にラーメンによる嫌がらせだ。やっぱりラーメンは悪いやつだ。そうかそうか。ならこっちにも考えがある。もう外ではラーメンは食べないよ。友達とはラーメン屋には行くけれど、チャーハンを頼むことにするよ。



そして1ヶ月後、友達からの連絡が来る。



もちろんラーメンではなくチャーハンを注文する。ラーメンよりチャーハンのほうが美味しいなーと厭味ったらしくラーメンに対して心の声をお見舞いしお店を後にする。



自宅に返ってふと袖元を見ると見覚えのある斑点。



そういえば、友達隣でラーメン食べてたな。あ~あそうですか。そうきますか。明らかに喧嘩売ってるね。もうお気に入りの服着て外出るなってことかな。そういうことになるよね。



こうやってお気に入りは一度も袖を通さずにタンスの肥やしになっていく。悲しい現実だ。
洋服タンスの整理をしている時にそんな事を思い出した。